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スラッキー・ギター(スラック・キー・ギター)の話
スラッキー・ギターの歴史や奏法の詳細については、
近年いろいろな教則本やウェブ・サイト等で紹介され
ているので、ここでは敢えて簡単な説明をします。

text by Slack-Key MARTY

・・・で、要するに・・・
まず、「スラッキー・ギター(スラック・キー・ギター)」というのはなにか?というと・・・
楽器としてのギターの種類の分類名称ではなく、奏法、つまり、ギターの弾き方の呼び方なのです。
その奏法は昔々ハワイで生まれました。ウクレレやスチール・ギターが登場するよりも前のことです。
英語表記によるとslack key guitar、ハワイ語ではkīkā kī hōʻalu(キーカー・キー・ホーッアル)と言います。共に『キィ(調子)をゆるめたギター』という意味です。
使用されるギターに特に種類・制限はなく、アコースティックやエレキ、6弦や12弦、スチール弦やガット(ナイロン)弦など、さまざまです。ウクレレを使ったスラッキーもあります。

スラッキー・ギターの特徴とは・・・
そのチューニング(調弦)の仕方にあります。一般的なギターのチューニングといえば、第6弦から第1弦の順に『
E-A-D-G-B-E』です。ところがスラッキー・ギターのチューニングはその音列に固定されず、多種多様。言い換えれば、自由ともいえるくらい多くのチューニングがあるのです。(約100種類あるという話もあります。)
そしてそれらは、演奏する曲によって、あるいは歌い手の声の高さによって、使い分けられたりします。また演奏者の「好み」による使い分けも当然ありましょう。
さらに、それらのチューニングが多くの場合、一般的なチューニングに比べてゆるめられた状態に調律され(前述の『キィをゆるめたギター』という呼称の所以はそこにあります。)、そのゆるんだ音の響きがまたスラッキー・ギターの音の特徴を醸し出す大きな要因となっているのです。
また、それぞれのチューニングには名前も付けられています。
因みに私が一番よく使うチューニングは
F-WAHINE (Fの女性)という名前が付けられています。音列は第6弦から『C-F-C-G-C-E』です。
ついでに私が好んで使う他のチューニングを挙げておきましょう。

C-WAHINE Cの女性 C-G-D-G-B-D
D-WAHINE Dの女性 D-A-D-F#-A-C#
TAROPATCH タロ芋の畑 D-G-D-G-B-D
KEOLA'S C ケオラさんのC C-G-D-G-B-E
F6th 第6音付のF C-F-C-F-A-D

なぜ、チューニングの名前が女性であったり、タロ芋畑であったりするのか・・・私にはわかりません。
でも、なんか好きです、こういうの♪


では、なぜそのように多くのチューニングが存在するのか・・・
その昔、ギターを初めて手にしたハワイの人達(ハワイのカウボーイ達である、と言われています。)が、正式にギターの扱い方を習わなかったからなのです。でも好奇心旺盛な彼らは自分達なりに自分達の好む音楽が表現できるようにそれぞれ好きなようにギターの音合わせ、つまりチューニングを施したのです。そして自分達に心地よい音を求めて、時には試行錯誤を繰り返し、スラッキー・ギターと呼ばれる世界を作り上げて行ったのです。

ところで、ハワイ音楽といえばウクレレとスチール・ギター・・・
それらに比べて、スラッキー・ギターはあまり知られていない、というのが実情ですね。前にも述べたように、スラッキー・ギターはそれらよりも古くから存在するというのに。。。
実はハワイでは昔、スラッキー・ギターという奏法は公衆の前で演奏したり、他人に教えたりすることをタブーとされていたのです。そしてひっそりと家族や親族等
(*1)、一部の演奏者の間で伝えられてきたのです。ですから、「ある時期」に至るまではスラッキー・ギターのコンサート等もほとんど行われなかった、と推測します。
さて、その「ある時期」とはいつのことで、その時になにが起こったのでしょう。比較的近年のこと・・・1950年頃のこと、「ギャビー・パヒヌイ(Gabby Pahinui)」というスラッキー・ギターの名手が世に出たのです。彼はコーヒー・ハウス(ライブ・ハウス)等での演奏活動を精力的に行い、また若いミュージシャン達を自宅に呼び、一緒に演奏を楽しみながら彼の音楽の輪を広げていきました。もちろん彼の素晴らしい演奏に多くの人々が感銘を受けました。
また、世界で初めてのスラッキー・ギターの教則本も「ケオラ・ビーマー(Keola Beamer)」というミュージシャンによって出版されました。彼が教則本を出版した時には、賛否両論だったそうです。「ハワイ音楽の発展にとって快挙である。」という人もいれば、「タブーを破ったけしからんやつ。」と批判する人も。。。(*2)
このような出来事が発端となり、今日にいたるまでスラッキー・ギターは少しずつではありますが、人々に認知されてきました。そして今や、ハワイ音楽の主流はスラッキー・ギターである、との声も聞かれるようになってきました。しかしながら、日本においては、やはり「ハワイ音楽といえば、ウクレレ&スチール・ギター」のイメージが強いことは否めませんね。
しかし、ウクレレもスチール・ギターも、そしてスラッキー・ギターも、みんな同じように素晴らしいハワイの音楽なんです。



(*1)あるミュージシャンは息子にも自分のチューニングを教えなかった、という話も残っています。そして、その息子は父親が留守の間にこっそりと父親のギター・ケースを開けて、そのチューニングを盗み取った、ということです。

(*2)ただし、このタブーがどれほど厳格に守られていたかは疑問です。1900年代初め頃、多くのハワイの音楽家達が北アメリカ大陸へ演奏のために渡航するようになり、現地の音楽家との交流においてお互いに影響を与え合っているからです。



もうひとつのハワイアン・ミュージック
text by Slack-Key MARTY


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